受託収賄罪などに問われている岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に対する公判が11月19日、名古屋地裁で開かれ、「対質」という珍しい形式の証人尋問が行われた。弁護側の証人として贈賄側の浄水設備会社「水源」の中林正善社長が出廷したが、同時に、中林社長と留置場で隣の房にいたというO氏も法廷に招かれ、二人への証人尋問が並行して実施された。(ジャーナリスト/関口威人)

●パーテーションで囲まれた証言席

通常と異なり、証人席が2つ並べられた法廷。一方には、パーティションが「コ」の字型に立てられていた。O氏の入廷時はさらに蛇腹のつい立ても設けられ、傍聴席からの視線が完全にさえぎられた。中林社長は黒のスーツ姿で入廷。つい立てのない、検察寄りの証人席に座り、異例の公判が始まった。

弁護人から、今回の証人尋問に応じる気になった理由を問われたO氏は「本当は出たくなかったが、中林の話があまりにも作ったような内容で、市長をはめようとしているのではないかと思った。私の友人や知人も利用しようとしていたので、許せなかった」などと説明した。

O氏は今年4月上旬、今回の贈収賄とは関係ない別の事件で逮捕され、愛知県警中村署に留置されたとき、隣の房にいた中林社長と会話をするようになった。中林社長が家族への気遣いを見せていたこともあり、O氏は「腹を割って話せる仲」だと思った。しかし、中林社長は釈放されると韓国人相手の人材派遣業を始め、その会計を「O氏の内妻に任せたい」と言い始めたことなどから、徐々に不信感を抱くようになった。

中林社長は自らの罪についても、O氏に語っていた。それによると、中林社長は2000万円ほどの詐欺事件で逮捕され、他にも計4億円の詐欺を犯していたという。しかし、「贈収賄事件で藤井市長の名前を出せば、詐欺事件の立件はストップする」と何度か話していたのだと、O氏は証言した。

●「刑事も検事もだましているのではないか」

また、4月下旬に警察と検察から連日取り調べを受けていた中林社長が「人数が合わないと言われて、刑事に怒られた」「最初は2人で会ったと言ったが、新しい証拠が出てきて3人になった。もう1回調書の取り直しだ。疲れる」などと留置場で漏らしていたと、O氏は語った。これは10万円の現金授受があったとされる美濃加茂市内のファミリーレストランでの会食について、当初は「藤井市長と2人きりで会った」としていた中林社長が、後になって「同席者がいた」と供述を変えたことと符合する。

その後、O氏は名古屋拘置所に身柄を移されたが、中林社長とは手紙のやり取りを続けた。藤井市長の逮捕や保釈をめぐる報道について、情報を制限されている中林社長が知りたがっていたからだという。しかし、事件の内容や人材派遣の話などをめぐって、中林社長への不信感が極まり、O氏は、保釈後の藤井市長や郷原信郎弁護士に手紙の内容などを伝えることとなった。

「刑事も検事もだまして、今こういう状態になっているのではないか」

O氏はこう主張した。しかし、中林社長はあっさりと否定した。「市長の名前」や「人数が合わない」などといった点について、「私は言ったことがない」と法廷で断言した。

O氏との関係については「波風を立てないような付き合いを維持するだけで、話を合わせることもあった」と述べ、人材派遣業の件についても「誤解されている」などと、自らの主張を滔々と語った。

●裁判長は前回尋問との「矛盾」を追及

さらに、中林社長は、ファミリーレストランでの人数を含めた事件の実情について、メールや伝票などを見せられたことで、4月中旬には記憶が喚起できていたと説明。4月下旬まで「つじつま合わせ」をしていたとする見方を否定した。検察側も、それを確認させるような尋問に終始した。

一方で、鵜飼祐充裁判長は「前回の証人尋問で、昨年4月以降は藤井市長と会っていないと言っていたが、実際は11月にも会っていた」と公判での矛盾点を追及した。


それに対して、中林社長は「(6月の)市長選までの話として言った」などと弁解したが、鵜飼裁判長は「市長選後もお金を渡そうとしたと言っていなかったか」などと突っ込み、納得していない様子だった。

最後に郷原弁護士が「今回の尋問のために何度も検事と打ち合わせしたのではないか」と問うと、2人の検事が「異議あり」と声をそろえ、「何度も、ではない」と主張。「では何回か」とあらためて聞かれた中林社長が「6、7回」と答えると、傍聴席から思わず笑いが漏れた。

次回は12月19日、検察側の論告公判となる。

(弁護士ドットコムニュース)