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神谷宗幣 (かみやソウヘイ)
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兵隊に行きたくない中国の一人っ子たち

ブログ |

毎年海外視察に行っていて気付くことは、

国が経済的に豊かになれば、

若者のハングリー精神は減退するということです。

シンガポールでも、中国でも、オーストラリアでも同じ悩みがあると学校の先生方がおしゃっていました。

海外の現状を聞くと、日本の教育はなかなか凄いな、と思ったこともしばしばです。

国が富み、戦争などしなくなるのが一番ですが、

国を守る、人のために働くという意識までなくなってしまっては困ります。

対岸の火事ではありません。

日本のこともよくよくふりかえりましょう!!

兵隊に行きたくない中国の一人っ子たち
簡単には兵力増強できない中国軍の実状

2012.11.13(火) JB PRESS 姫田 小夏

 「依法服兵役是公民的栄誉義務」(法に基づく服役は国民の栄誉ある義務)そんなスローガンが書かれた横断幕が、上海市内の大学構内にも掲げられた。

 中国人民解放軍(以下、人民解放軍)は毎年定期的に募集を行っている。今年はさらに“賢い知識青年”の比率を高めようと力を入れており、特に大学生の入隊に期待している模様だ。

 中国には兵役の義務がある。「中華人民共和国憲法」第55条は「祖国を防衛し、侵略に抵抗することは一人ひとりの国民的神聖な職務である」と謳っている(ただし実際には、個人の志願に委ねられており、韓国のような厳格な徴兵はない)。

 「中華人民共和国兵役法」(以下、兵役法)第12条によれば、満18~22歳(高等教育機関での学習者は24歳まで延長)の者が徴兵される、とある。つまり現在は、1988~1994年生まれである「80后(80年代生まれ)の末期と90后(90年代生まれ)の前半」がその対象となる。

 人民解放軍は人員を派遣し、中国各地の大学を訪問し説明会を行うなどして、大学生をかき集める。だが、その歩留まりが思わしくない。中国のニュースサイト「人民網」によれば、2011年は歩留まりの低さが目立った年だったという。

 山東省と言えば、全国の10分の1に相当する新兵を創出する一大拠点。裏を返せば多くの貧農を抱えているというわけなのだが、ついに昨年は人員が計画の数に満たず、2度も募集キャンペーンを繰り返した。

 その理由はいくつかある。出生率の低下がその1つだ。90年代生まれは、中国の第3次ベビーブーム(1985~1990年)を終えた後の世代で、その出生率低下は大学受験者数などにも影響が表れるほど。山東省でもまさしく新兵募集を巡って90年代の出生率低下に頭を悩ましている。

 また、かつての貧農は、国や地方政府から支給される手当を目当てに息子を兵役に送り込んだものだったが、今では就職先や学業の場に恵まれ、息子に軍隊生活の苦労をさせずとも、そこそこの生活ができるようになった。

 その一方で、企業では猫の手も借りたいほどの人手不足。軍と企業が若者を引っ張り合う状況が生まれており、これが「新兵不足」につながっているとも言われている。

いまどきの一人っ子にはムリ?

 「国防意識の低下」も大きく指摘される。個人の価値が多様化し、本人たちも「苦労はしたくない」という意識が強い。また各家庭の親も「大事な一人息子を太陽の下で働かせて汗をかかせるなどとんでもない」という思いを抱いている。

 こんなエピソードがある。

 2011年、北京大学では3500人の学生が参加して2週間の軍事訓練を行ったが、めまいで医務室に転がり込んだ学生の数は延べ6000人を超えたともいう。

 中国では、大学や専門学校の新入生を対象に、1~2週間にわたって軍事訓練が行われる。訓練内容は様々で、中には「直立不動を一定時間続ける」というメニューもある。だが、残暑厳しい9月という天候も禍いし、バタバタと倒れる男子学生が続出するらしい。

 また、ある大学生が訓練5日目にして退学したことも話題になった。「毎日風呂に入れない、食堂の食事がまずい」というのがその理由だった。

 一方、2012年9月、河南省のある大学では軍事訓練が突然中止になった。指導にあたる人民解放軍の兵士が現場の配備に駆り出され、訓練に手が回らなくなったというのだ。中止の通知を受けた学生たちが手を叩いて喜んだことは想像に難くない。誰もがこの訓練にうんざりしているのだ。

進む兵役逃れ

 中国では大学生でも学業を中断して兵役に臨む。しかし、条件が厳しいため最終審査に残る人材は限られる。

 男性なら162センチ以上、女性であれば160センチ以上の背丈、また(身長-110)の標準体重が求められる。視力も裸眼で右目4.9(日本で言う0.8)、左目4.8(日本で言う0.6)以上が求められる。

 筆者が訪問した80后の一人息子を持つ母親Aさんは「うちの息子も申し込みましたが、視力が悪いため不合格でした」と打ち明ける。

 近年の若い兵士の“質”低下は、以前から指摘されるところでもあった。2011年9月に発表された「国民体質測定結果」によれば、小中学生の視力の悪化や肥満傾向に加え、健康と基礎体力が25年連続で下降線を描いているという問題が指摘された。

 中国では体育の授業が疎かにされているせいもある。中国の体育の授業は、日本の授業で求められるような発達段階に応じたプログラム設計や、それに基づいた学生に対する達成度の要求などが明確ではない。学生たちも、国数英には力を入れるが、体育、美術では力を抜く、といった具合である。学生の体力増強のために、現在、中国教育部では「体育の成績を大学入試の評価に加える」などの議論が展開されている。

 他方、審査をクリアしても最後の最後で入隊を拒否するケースも少なくない。条件から外れようと故意に薬物を服用し、血液検査や尿検査で「不合格」になろうとするケースもある。

 前出のAさんは「そういう息子を持つ家庭に対しては、町内ぐるみで参加を促すようにしているんですが・・・」と語る。

 兵役は義務とはいえ、ある程度の自由度があるため、そもそも兵役に服さない学生も存在する。応じなければ学費の補助などの優遇が受けられないほか、「人事档案」(職場や団体が保管する個人の身の上調書)にその行状記録が残ってしまう。

 それでも過酷な軍隊生活を嫌がる若者は少なくない。湖南省長沙市の出身のBさん(23歳)は「当時のクラスメイトで兵役に就いた者はほとんどいない」と話している。

テレビドラマで国防意識を高揚


 中国国防部(日本の防衛省に相当)にとっては、こうした若者の「兵役離れ」が大きな問題になっている。何しろ、960万平方キロメートルという、世界第3位でアジア最大の国土と延々たる国境線を抱える上、昨今、尖閣諸島周辺にきな臭さが立ちこめているため、防衛力配備にはより多くの人手が必要となっているのだ。

 人民解放軍は隊員募集期間の到来に先立ち、今年は一種の心理的誘導作戦を展開した(毎年何らかの仕掛けはあるようだが)。それは、国慶節期間中に放映された、若者の入隊をテーマにした「我是特殊兵」(私は特殊兵)というテレビドラマである。

 男子学生の主人公が恋人を追って入隊を決意するが、軍隊生活は想像以上に過酷な世界であることを知る。それがドラマの始まりだ。

 論理的に物事を思考する大学生には、上官の命令の不条理が受け入れられない。班長の暴君ぶりに「非人道的だ」と反抗する主人公だが、必ず重い処罰が加えられる。

 「軍隊とは何か」という問いから始まるこの作品が描くのは、上下関係の中からも生まれ出てくる人間愛、過酷な生活を通して結ばれる人間の絆の強さである。そこからは、視聴者をホロッとさせながらも、国民の国防意識を高めようという意図が伝わってくる。

 今年の入隊応募者は、この映画に感化された者も少なくないようだ。大学生の間では「自分もあの主人公のように・・・」といった志願者も少なくないようで、ネット上には「積極的に行くぞ」「あのドラマを見たからには!」などの書き込みが散見される。

「軍事教育で鍛え上げてほしい」という親も

 さて、親の本音はどうなのか。

 前出のAさんは「上海人の家庭ならば“行かせたくない”というのが本音でしょう。息子の苦労が気になりますから。正直に言えば、息子が近視でよかったです」と打ち明ける。

 その一方で、苦労を知らない「90后」「80后末期」生まれが厳しい軍隊生活で人として成長することを期待する家庭もある。ネットには「90后の親ならば、独立心を養うために絶対入隊させるべきだ」とする書き込みが現れる。「団体精神の育成」「厳しい規律に耐え抜く意志」「苦労を乗り越える我慢強さ」などが軍事教育で身につけられると期待する声は少なくない。

 しかし、“中国版新人類”と呼ばれる90年代生まれの学生たちの間には、「絶対服従を求める軍隊教育はムリ」という拒絶反応は依然強い。

 反日感情には簡単に火がついても、「お国のために」という気持ちはなかなか燃え上がらない。かつては一致した個人、家庭、軍の利害も、今はそのバランスを失いつつある。「愛国」というスローガンだけでは増強が難しい兵力の実情が浮かび上がる。

姫田 小夏:プロフィール
Konatsu Himeda
中国情勢ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務等を経て97年から上海へ。翌年上海で日本語情報誌を創刊、日本企業の対中ビジネス動向を発信。2008年夏、同誌編集長を退任後、東京で「ローアングルの中国ビジネス最新情報」を提供する「アジアビズフォーラム」を主宰。現在、中国で修士課程に在籍する傍ら、「上海の都市、ひと、こころ」の変遷を追い続け、日中を往復しつつ執筆、講演活動を行う。著書に『中国で勝てる中小企業の人材戦略』(テン・ブックス)。目下、30年前に奈良毅東京外国語大学名誉教授に師事したベンガル語(バングラデシュの公用語)を鋭意復習中。

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