日々の活動やニュースに対する考え、視察の報告などをブログにまとめています。

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神谷宗幣 (かみやソウヘイ)
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エストニア視察(平成30年5月16日~19日)

最近の動向, 最近の動向 |

私たちは今、日本の地方から日本を元気にするプロジェクトを模索をしています。

そこで今回は、人口130万人のエストニアと人口35万人のアイスランドを視察してきました。

 

日本でいえば、政令市や中核市くらいの人口で国として存在しており、それぞれの特色を活かしてそれぞれにキラリと光るものがある両国を視察し、日本の地方の可能性を考えてきました。

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今回はその前半のエストニアについて簡単に報告したいと思います。

エストニアはバルト三国に一つで、1991年にソ連から独立した国です。

そこに至るまでもこの国の歴史は壮絶で、13世紀以降、デンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、ロシア帝国などの支配を経て、第一次大戦後1918年ロシア帝国より独立したものの、また第二次大戦中1940年にソビエト連邦が占領、翌1941年独ソ戦でナチス・ドイツが占領、1944年ソビエト連邦が再占領し併合と大国に翻弄されてきました。

こうして占領され続けた歴史がエストニアの一つのアイデンティティーになっていると感じました。
1991年に独立したときには、主要な産業はすべてソ連が引き揚げてしまい、残ったのはITのエンジニアと技術のみだったといいます。
そこでエストニアはそのITを使って、国の産業と自立を興隆する道を選んだのです。

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そんなエストニアでは主に6つの機関を訪問させてもらい、

教育とICTをテーマに視察をしてきました。

まず、最初に訪問したのは、1631年に当時の統治者スウェーデン王グスタフ・アドルフによって開かれたグスタフアドルフグラマースクールです。

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ここは日本でいえば小中高の一貫校で12年制の学校でした。

学校を案内してくれたのは高校三年生の男子生徒。

彼は学生をしながら先生のICTアシスタントをしているそうで、我々のようなお客が来るといつも案内をしているそうです。

18歳とは思えない落ち着いた様子で、学校で使っているICT機器などの紹介をしてくれました。

学校の校舎は改装されたばかりで、子供たちがくつろげるスペースがたくさん作られていました。

ヨーロッパの学校を回って共通して感じるのは、学校がアットホームな雰囲気で作られていることです。

日本の学校にももう少し余白や遊びの空間があってもいいように思いました。

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授業参観もさせていただきましたが、やはり1クラスの人数が少ないです。

15~20人くらいで編成されているようでした。

授業態度はかなり自由な感じ。整然としている日本の学校とはかなり雰囲気が違いますが、

どちらがいいのかは私もまだわかりません。

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授業見学後は、小学生の生徒たちが、ICT教材をつかって自分たちが受けている指導を我々に体験させてくれました。

言葉も通じないのにしり込みもせず、大人の我々に指示を出す様子は、日本とは違う光景でした。

 

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次は会場を変えて、エストニアの電子政府の取り組みについてレクチャーをしてもらいました。

エストニアでは、国民の98%がIDカードを持っており、

それを使って、電子カルテ、処方箋、電子投票、e-スクール(電子通信簿のイメージ)、住民登録など様々なサービスをIT化しています。
電子政府の詳しい内容はこのブログがわかりやすいと思うのでリンクを張っておきます。

http://koremaji.com/2016/08/e-estonia/

こうしたシステムを支えるものとして、サイバーセキュリティやブロックチェーンの技術を駆使しているとのこと。
ここまでのことができたのは、IDカードを普及させたことが大きいのですが、それには様々な努力があったようです。

IDカードを持つ人にバスを無料化したり、高齢者には各地方の行政が丁寧な説明会をしたりして、このIDカードを普及させたということでした。
人気のあった大統領が率先して電子政府がエストニアの生き残る道だと国民に訴えたことも大きかったようです。

2020年までにさらなる電子化の徹底を目指して頑張っているという話も聞けました。

 

日本の住基カードの失敗やマイナンバーカードが普及しない現状を考えると、

IDカードの普及が一番の違いであり、日本の電子化が進まないポイントだとよくわかりました。

政府と国民の信頼関係、便利さか情報の不開示かのせめぎあいといった課題が浮き彫りになります。

また電子化によるオートメーション化で労働力不足もカバーするという話もあったので、労働移民の受け入れについて質問すると、

企業側は安い労働力を欲しがっているが、政府としては安易に移民受け入れを拡大したくはない方針だとのこと。

130万しか人口がいませんから、大量の移民流入は、国の根幹を揺るがしかねないという思いもあるようでした。

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午後はインキュベーション施設のテクノポルを訪問させていただきました。

ここは政府とタリン工科大学と民間の3者で運営されており、立ち上げ、資金提供、運営サポートといったスタートアップのトータルサポートをしているとのこと。

こうした施設に集まり切磋琢磨する起業家を「エストニアン・マフィア」と呼ぶそうで、

こうした環境の中から『SKYPE』などの企業が生まれたとお話を聞きました。

これから力を入れていく分野は、ICTとへルスケア、グリーンテクノロジーだそうです。

なぜこの分野に特化するかというと、小資本でスタートでき、大きく伸ばせる分野だからということでした。

彼らはいつも枕詞に「エストニアは小さい国だから、資本がないから」といいいます。

確かに今回訪問して私もそう感じました。

施設も投資される金額も、日本人の我々が度肝を抜かれるようなものではありません。
日本でも十分にできることばかりです。

ではなぜエストニアのスタートアップが盛んだと言えるのか。

私の解釈では、やはり起業したい若者が多いからだと思います。

エストニアは経済大国でもなければ、国内内需のある国でもありません。主要な生産業もない。

となると自分たちで作っていくしかないのです。

これは、オランダやイスラエルでも感じたことです。

 

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なぜ、スタートアップが盛んになるのか?

国内だけではやっていけないから、パイが小さいから、

世界を視野に入れて若者が挑戦するのです。
日本は少し落ち目とはいえ、まだまだ経済力も内需もある国です。

日本だけを見ていてもなんとかやっていける。

その安心感が若者の挑戦を鈍化させているような気がします。
つまり「本気を出していないだけ」なんだと思いました。

これから日本の状況が厳しくなってくれば、若者が覚醒してくるのかもしれませんが、

日本全体で考えず、地方単位で考えればかなりまずい状況にあると思います。

地方の行政や教育機関は、都市部に依存するのではなく地方の自立を考えて若者に地方の厳しい現実を直視させ、それを打開する道を考えさせれば、日本のポテンシャルは十分にあると感じました。

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現地視察二日目は、エストニアのICT教育を政府と連携してサポートするHITSAという機関の訪問からスタートしました。

エストニアでは、独立から間もない1996年からICT教育に力をいれて来たそうです。

なぜICTに力を入れたかというと、人口が少ないエストニアでは、子供が宝であり、その子供たちがこれからの世界で自立するには、ICTの技術が欠かせないと考えたからだそうです。

しかし、それでもICTの授業は正規教科になっているわけではなく、あくまで生涯学習の位置づけだとのこと。

小学校で20%、中学校で50%、高校で70%のところで、ICT教育をやっているにすぎず、国内すべての学校でやっているわけではないことが分かりました。

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全ての小学校でプログラミング教育が行われてるといったような話があったので確認すると、

なんとそれは2012年に外国のメディアが誤報で流したものであったことが分かりました。

しかし、政府としてはそれが注目されたので、一部の学校でプログラミング教育を始めるようになったとのことでした。

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午後は、エストニアのサイバーセキュリティ―を支える人材を育成するITカレッジを訪問しました。

こちらは2017年にタリン工科大学に統合されていて、年間40名の学生を専門的に育成しているとのことでした。

その半分は外国人で日本人も生徒にいるとのことでした。

ちょうど我々が、訪問する少し前の5月6日、 小野寺五典防衛相が、訪問先のエストニアでルイク国防相と会談し、

サイバー攻撃対策の先進国である同国とのサイバー分野での協力を進展させることで一致した、というニュースがあったので、

なぜエストニアに協力を持ちかけたのかを私が何度も質問するのですが、明確な答えが返ってきませんでした。

私の知識では、アメリカ、ロシア、中国、イスラエル、イラン、北朝鮮あたりがサイバー戦争の主戦場で戦っていて、

エストニアが強いというイメージがもてなかったための質問でした。

この点については、後日のヒアリングで納得できる答えをもらうことができました。

それは、エストニアぐらいのサイバーセキュリティーが日本にはちょうどいいという回答です。

どういうことかというと、日本は憲法9条があるため、サイバー戦争ができません。

サイバーの世界でも専守防衛しないといけないのです。そうなるとセキュリティーのために相手のシステムを潰してしまうような

システムは使えないのです。そうなるとアメリカなどのサイバーセキュリティーは日本には合わないことになります。

その点、エストニアは大きな国ではないので、自分たちの生活インフラを守るためのサイバーセキュリティーしか整備していないのでしょう。

それが、日本にはちょうどマッチしたという解説に私は納得してしまいました。

ここでも日本は、、、、といった感じで情けない想いがしました。

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エストニア視察の最後は、エストニアの電子政府の仕組みを世界に広げるEガバメントアカデミーを訪問しました。

お話は今回の視察のメインとも言える内容で、電子政府の運営を担ってきた担当者の話は本で読む内容とは一味違いました。

エストニアの技術をなんとか日本でも活かせないかといろいろな質問をしましたが、やはりIDカードを普及させないと何も始まらないことがわかりました。
他にも日本でもてはやされるブロックチェーンや仮想通貨に対し
担当者がそれほどのものではない、といった見解を持っておられたので驚きました。

担当者は、電子政府を作るにも大切なのはコンセプトで、
どんな社会を作りたいか、どんな国民生活を想像したいか、というビジョンをまずつくり、次に法整備を整えて、技術はその先だとおっしゃっていました。

そうなんです。

日本には独自のコンセプトがないから技術や仕組みを作っても普及しないんです。

必要なのは、技術ではなく、コンセプトをつくり皆さんに広げられるリーダーなんですね。

最後にそれを痛感したエストニアの視察でした。

今回の視察に当たっては本やネット記事をたくさん予習して行ったので、

イメージが膨らんでいましたが、イメージが先行していて思ったほどの衝撃は受けませんでした。

繰り返しになりますが、日本にも十分なIT技術はあると思います。

それをどう使って、何を成し遂げるかの明確なビジョンや計画がなく、

国民の意識もまとまっていないのが、人口約130万人のエストニアに遅れをとる理由なのだと感じました。

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次回はアイスランドの報告をします。

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